音声を録音

ICレコーダーはカセットテープを使わず、内蔵の半導体メモリーに音声を録音する。カセットテープレコーダーに比べ小型軽量で、巻き戻しや早送りなしに頭出し再生できる。21世紀初頭の2001年は、約36万台が販売された。

録音時間が長くなった

注目を集め始めたのは、20世紀末だった。しかし、当初は長い機種でも1時間弱しか録音できなかった。それが、2002年には数時間から数10時間録音できるものがほとんどになった。

こうなると先に乾電池が消耗してしまうため、メーカー間の長時間競争は一段落した。代わって付加機能の充実が焦点になった。

カメラ付き

たとえばアイワの「IC―DP200」は31万画素のデジタルカメラを搭載。声に加え、最大200枚分の写真でメモを“撮る”ことができた。撮った写真と組みでコメントのように音声メモを付けることも可能。撮影モードでシャッターを切った後、録音ボタンを押して内蔵マイクに向かって話すだけ、と手順も簡単だった。

16メガ(メガは100万)バイトのメモリーを内蔵。200枚撮影しても70分間は音声録音できた。レンズ付きフィルムを持ち歩いて写真日記を撮っているような人は、声で内容を説明できるというメリットがあった。

東芝

東芝とオリンパス光学工業はそれぞれ、MP3などの方式に対応した音楽再生機能を搭載したレコーダーを販売した。東芝の「IC―SD2」は切手大のSDメモリーカード、オリンパスの「ボイストレック DM―1」は薄いスマートメディアをメモリーに採用した。音楽を聴くときとレコーダーとして使う場合でカードを差し替えて使うことができた。

東芝でICレコーダーの商品企画を担当した藤井秀樹氏は「購入者の8~9割がビジネス目的。音楽を聴ける機能を加えれば、仕事に関係ない人の注目度も高まる」と語っていた。

通勤途中に音楽を聴く

会議の議事録に使うために買ったICレコーダーで通勤途中に音楽を聴くといった使い方もできるようになった。それを見た家族にもじわじわ認知が広がった。

実際、仕事以外でICレコーダーを使う人は徐々に増えた。たとえば学習用。大学の講義を録音する学生が増えた。

習い事

習いごとも同じだ。ピアノ教室の先生が生徒の演奏を録音し、すぐに再生して練習ポイントや欠点を指摘する。そんな使い方が広がった。母親が子供の演奏を収録するのに使うケースも多かった。

テープと違って繰り返し聴く場合や頭出しに向いていた。音質が向上していることもあり、授業や講義の内容確認や復習に適していた。

語学学習に応用

音楽再生機能を語学学習に応用する使い方も生まれた。CD―ROMで出ている英会話教材を、音楽などデジタルデータの圧縮方式の一つであるMP3に変換し、レコーダーに取り込んで聞くという事例が増えた。

本体が小型軽量なため、身につけて使うのに適している点も日常生活では有用だった。

料理教室

料理教室で講師の発言を復唱して録音すれば、実習の手を止めてメモを取る手間が省ける。ちょっとした調べ物で書店に出かけたとき、コピー代わりに小声で内容を吹き込むこともできる。スキューバダイビングの終了後に経過を仮記録したり、登山中に山行の様子を口述したりする例も出た。

価格は2万~3万円

これらのICレコーダーの実売価格(料金)は2万~3万円だった。さらに、低価格の外国製品も登場した。

高音質で集音できるのは通常、数メートル先の音声までだった。遠くの話し声を確実にとらえるには、別売りの外付けマイクを接続する必要があった。

21世紀初頭に流行したICレコーダーの主な商品

商品名(メーカー) 性能・特徴
IC-SD2(東芝) MP3、AAC方式で音楽再生。データはSDメモリーカードに記録。付属の64メガバイトカードでモノラル音声は最大16時間50分、音楽はCD相当の音質で約80分録音
ICD-MS500(ソニー) 高圧縮技術を採用。128メガバイトのメモリースティックを使えば、最大47時間26分のモノラル音声を録音
ボイストレック DM-1(オリンパス光学工業) MP3、WMA方式に対応。32メガバイトスマートメディアが付属。64メガバイト換算でモノラル音声は最大22時間10分、音楽はCD相当の音質で約1時間42分録音
IC-DP200(アイワ) 31万画素の単焦点デジカメ搭載。内蔵16メガバイトのメモリーに最大200枚の画像と最大70分のモノラル音声を記録。音声単独なら最大4時間20分録音
RR-US620(松下電器産業) マイクの感度を指向性と無指向性に切り替え。内蔵メモリーに最大28時間30分のモノラル音声を録音