フラッシュメモリー技術の不正使用が争点
訴訟の対象となったのは、半導体メモリーに関する技術だ。
訴えによると、東芝は、開発元の米レキサーに無断で技術を不正使用した。
紛争の対象となった技術は、フラッシュメモリーだ。
フラッシュメモリーは、デジカメの画像保存などに使われる。
当時は、デジタルカメラや携帯音楽プレーヤーへの搭載で市場が広がっていた。
日本語では「電気的に一括消去・再書き込み可能なメモリー」とも呼ばれる。
NAND型で世界2位
東芝は、フラッシュメモリーのうちのNAND型というタイプを主力にしていた。
米ハイテク調査会社ガートナーによると、当時、世界シェアは25%(売り上げベース)に達していた。世界シェア2位だった。1位は韓国サムスン電子だった。
一方、米レキサーはデジカメ用フラッシュの隠れた大手だった。デジカメ大手がレキサー製品を同梱(こん)出荷していた。
当時のデジカメ大手とは、日本のキヤノン、ニコン、カシオ計算機などである。
アメリカ本国ではイーストマン・コダックなどにもOEM(相手先ブランドによる生産)供給していた。
1997年に東芝が300万ドルを出資
かつて東芝とレキサー両社は、パートナーだった。
フラッシュの共同開発に取り組んでいた。共同開発の合意を機に1997年には東芝が300万ドルを出資した。非常勤取締役も派遣した。
レキサーの訴状によると、フラッシュの商品化を目指した東芝が、レキサーの制御技術に注目した。そして、提携を申し入れた。
だが、1999年に両社の関係は一変した。東芝は出資を引き揚げ、提携を解消した。
これと相前後して東芝がレキサーのライバルである米サンディスクとフラッシュの製造合弁などで提携した。
これによって、亀裂は決定的になった。
東芝も特許侵害を理由にレキサーを提訴
東芝は、レキサーが不正入手したと指摘する技術は、東芝が独自に開発したと反論した。
また、東芝側も特許侵害を受けたとして、提訴していた。
評決
評決は、東芝に3億2270万ドル(約340億円)の支払いを命じた。さらに、東芝の現地子会社、東芝アメリカ・エレクトリック・コンポーネンツ(カリフォルニア州)に5870万ドル(約60億円)の支払いを命じた。
年間の利益に匹敵する金額
2005年3月期の連結決算の純利益の予想額450億円にほぼ匹敵する額だった。東芝にとっては厳しい内容だった。
東芝は当時、2700億円を投じて三重県の工場に最先端の300ミリウエハー対応の新生産棟を設ける計画を進めていた。
和解で決着
東芝は黙って判決を受け入れることはしなかった。
多角的な交渉の末に、この争いは「和解」で決着した。
和解した時期は、2006年9月だった。
これに先立つ2006年3月、レキサー・メディアは、米半導体メーカー大手、マイクロン・テクノロジに買収されていた。
このため、和解は、マイクロンとの間で成立した。
マイクロンに300億円支払い、特許使用権を得る。
和解内容では、東芝が2億8800万ドル(約338億円)をマイクロンに支払った。
その対価として、マイクロンが保有する半導体特許の一部の譲渡を付けた。
さらに、レキサーの保有するすべての特許の使用を許可された。
これにより、両社のすべての係争が取り下げられた。
両社の係争とは、相互に起こしていた特許侵害訴訟や、レキサー社による東芝への損害賠償訴訟などである。
フラッシュメモリー市場の状況(2003年~2004年)
フラッシュメモリー(電気的に一括消去・再書き込み可能なメモリー)の2003年の世界市場は前年比46.5%増の116億4900万ドルだった。
特にデジタルカメラやカメラ付き携帯電話機の画像保存に使う「NAND型」と呼ぶ大容量品が急成長し、市場を独占する韓国サムスン電子と東芝がシェアを上げた。
携帯電話のプログラム格納用に適した「NOR型」は参入企業が多いため価格競争が激しく、NOR型を手掛けるメーカーはシェアを下げた。2位の米FASL(現スパンション)は7月発足の米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)と富士通のフラッシュメモリー事業統合会社。統合効果で2位に入ったが、シェアは2002年の2社の単純合計より1.7ポイント低下。前年首位の米インテルは11.6ポイントも低下し、4位に後退した。 (参考:有宗良治)